5年以上“オフィスなし経営”を続ける会社の社長にその極意を聞いてみたら、終始「すごい」しか言えなかった話

緊急事態宣言が解除された後も各社でテレワークについての是非が議論されています。これを機にオフィスを解約する意思決定を行った企業も少なくありません。しかし、環境や制度・マネジメント・社員のエンゲージメント管理など、テレワークには多くの課題が発生します。

企業やサービスのマーケティング/ブランディング戦略の考案・実行を行う株式会社mannaka(まんなか)は、2015年の設立当初からオフィスを設置せず、全社員テレワークの働き方を取り入れています。

今回、株式会社mannaka代表取締役の柴田雄平さんに、テレワークでも事業成長し続けるためには何が必要なのかを聞きました。


シューマツワーカー代表取締役の松村幸弥(左)、mannaka代表取締役の柴田雄平さん(右)

年間500時間の通勤時間

平日の昼間はカフェで作業するスタッフも多いそう

松村幸弥(以下、松村):本日はよろしくお願いいたします! そもそもなぜ、オフィスなしで全員テレワークの働き方を取り入れようと思ったのでしょうか?

 

柴田雄平さん(以下、柴田):。大きな理由は2つあります。1つ目は通勤時間。サラリーマン時代に、「通勤時間って、なんて無駄なんだろう」と感じてたんですよね。

たとえば通勤に往復2時間かかるとしたら、月に40時間ちょっと、年間で考えると通勤時間が500時間ほどかかってますよね?この時間を通勤の代わりに勉強やスキルアップに使った方が良いと思ったんです。

 

松村幸弥(以下、松村):通勤時間をそういうふうに計算したことなかったですが、言われてみればまったくその通りですね。あと、“年間500時間”ってかなりパワーワードですね(笑)。

 

柴田:2つ目は家賃の高さです。これもサラリーマン時代の経験からなのですが、前職は営業マンが多く、皆ほとんどオフィスにいなかったんですよ。でもある日社長が「家賃たけえな~」って言ってて、「だったら社員の給料あげろよ」って思ったんですね。

都内にオフィスを構えるとそれだけで月数十万から数百万円の出費になります。自分で会社をやるなら、オフィスにお金をかけずにもっと社員に還元したいと思ったんです。

また、弊社は僕も含め子育て世代が多く、中には保育園に預けられないというメンバーもいます。そういう意味でも社員にとってテレワークという働き方はメリットだったんですよね。

 

松村:なるほど。5年前からその発想を持たれてたのは、かなり先進的ですね!社員への還元はどのように行っているのでしょうか?

 

柴田:もちろん給料もそうですが、弊社ではひとりにつき毎月上限10万円の経費を支給しています。この経費は携帯代や書籍代、リモート勤務の際のカフェ代、さらにクライアントとの会食費にも利用OK。「お客さんとの会食は出来るだけ出してもいい。お付き合いを大切に(もちろん常識の範囲内でね♡)」と言っています。

 

松村:すごいですね!経費使う時って少し罪悪感を感じますが、そういってもらえると思い切ってクライアントと飲みに行けますね(笑)。

マネジメントをしないで済むカルチャー作り

mannaka代表取締役の柴田雄平さん

松村:全員テレワークのメリットはわかりましたが、やはり懸念となるのはマネジメントですよね。御社ではどのように工夫されているのでしょうか?

 

柴田:それで言うと、個人のKPI管理や行動管理、勤怠管理などのマイクロマネジメントはほぼしていないです。大きな企業ならしっかりマネジメントをしなければいけませんが、弊社のように全体でも50人くらいの組織ならチーム単位でのマネジメントで十分。むしろ管理しすぎる方が管理する側もされる側も疲弊してしまい、パフォーマンスが落ちちゃいますよね。

 

松村:なるほど。50人もいると充分マイクロマネジメントが必要そうな印象でした(笑)。

 

柴田:実は、それをしなくてすむ理由は弊社の2つのカルチャーにあるんです。

ひとつは、全メンバーが「身近な人を幸せにする」という価値観を持っています。それをお客さんに当てはめて、「お客さんの期待値を1%超える」ということをものすごい大切にしていることです。

弊社の事業内容的にも、細かくマネジメントするよりも、そのカルチャーが徹底されているほうが結果として良くなるんですよね。

 

松村:「身近な人を幸せにする」も「お客さんの期待値を1%超える」もすごい良いですね!

けっして壮大なビジョンではないかもしれませんが、逆に言えばどんなメンバーでも」それだったらできるし、したいと共感できる」と思いました。あ、だから「お客さんとはどんどんお付き合いしろ」となるんですね(笑)。

 

柴田:そのとおりです。なので弊社は売上よりも“既存顧客のリピート率”を指標として重視しているんです。

実は、弊社は新規営業活動ってまったくしないんですよね。全て既存のお客さんからのリファラルで仕事を受注しているんですよ。多い日には1日2~3社紹介されます。

 

松村:すごいですね! メンバーに求めていることはシンプルですが、それが評価指標まで一貫性をもっていて徹底されていれば、結果としてお客さんがどんどん増えていくってことですよね! かなり衝撃的です、すごいです!

 

柴田:ありがとうございます(笑)。

 

松村:もう1つのカルチャーは何でしょうか?

 

柴田:「他責にしない」という価値観が徹底されていることです。

弊社は基本的にクライアントワークなのですが、1プロジェクトにつき2人か3人のチームをアサインするようにしています。また、1人が常に4~5プロジェクトを兼任するような体制にしています。その上で、個人で評価はせずチームで評価を行うようにしています。

そうすることで、例えばパフォーマンスの悪いメンバーがいてプロジェクトが上手くいってない場合は、その人のせいにするのではなく、チーム全体の課題として他メンバーにも当事者意識を持ってもらう仕組みになっています。

 

松村:なるほど、すごいですね。「社員みんなに当事者意識を持ってほしい」という課題はよく経営者の方が言われてますが、それを評価ポリシーと体制で仕組み化してるんですね。

給料は自己申告制?

柴田:あとは、他責にできないよう給与の設計方法も工夫してますね。

 

松村:すごい気になります! 確かに、テレワークにおいての評価方法や制度もよく問題になりますよね。

 

柴田:弊社は360度評価を取り入れていまして、且つ僕を含めて全社員の年収を全公開しています。

そして特徴的なのが、全メンバーに毎年まず自分の希望年収を自己申告してもらうんですね。「自分はこれくらい欲しいです!」という風に。その申告した年収金額と、360度評価をもとに役員メンバーで全社員の給料を決めていくんです。

 

松村:おお、すごいですね。給料を公開する企業の話はたまに聞きますが、自分で希望の給料を申告するのは初めて聞きました。しかしそれが、どうして「他責にしない」の価値観につながるのでしょうか?

 

柴田:はい。ここからがポイントなのですが、そうやって全員の年収が決まると年間の人件費総額がFIXしますよね。実はその人件費総額をもとに経常利益率を逆算して年間の売上目標を立てるんです。

すると、「自分たちで申告した年収をもとに作った売上目標だから、絶対に達成しないと!」ってなるんですよね。だから全メンバーが、売上目標に対しての当事者意識が高いんですよ。

そうして、自ずと細かくマネジメントしなくても良い組織状態になるんです。あと僕が年間の売上計画を立てるのがすごい楽です(笑)。ちなみに目標を上振れた利益分は主に採用費にあてています。そうやって組織拡充を行っています。

 

松村:なるほど…! すごいですね! いやーすごいです! 新しい経営スタイルの解を知った気分です! すごいです!

 

柴田:ありがとうございます(笑)。

社員エンゲージメントを下げない工夫

松村:社員のエンゲージメント管理もほとんどされないのでしょうか?

 

柴田:そうですね。定期的に定量観測はしてないですね、たまに1on1するくらいです。

2つ工夫は行っていて、まず休みやすい空気作りを行っています。先ほども言いましたが、弊社は子育てするパパママ世代が多いんですね。例えば、子供が熱出して仕事に手が回らない時って、すごい申し訳なくなりますよね?

 

松村:僕は子供はいませんが、気持ちはわかります。サラリーマン時代に体調不良で会社を休んだら、次の日すごい嫌味を言われた経験があります(笑)。

 

柴田:弊社はプロジェクトチーム制ですので、もしチーム内の誰かが「子どもが熱を出した」「学校の行事がある」などの予定で休む場合はチームの他メンバーがサポートする仕組みになっています。その上で「休むことは当たり前」という価値観を作っていますね。

 

松村:なるほどですね。パパママ世代からするとすごく働きやすいですね!

 

柴田:もうひとつの工夫は採用。基本的にスキル重視で行っています。教育コストがかかるジュニアクラスのポテンシャル採用は行わないようにしています。

 

松村:たしかに。全員テレワークな環境で新人を教育するのって大変ですしね。

柴田さんが考える日本企業の働き方のこれから

松村:最後の質問です。これは御社のことではないのですが、柴田さんは今後日本企業の働き方はどのように変化していくと思いますか?

 

柴田:今回の緊急事態宣言に伴うテレワーク拡大により、各社と各者が在宅勤務のメリットに気付いたと思います。しかし一方で、デメリットに気づいた人も少なくないのではないでしょうか。

なので個人的には、テレワークとオフィスワークのハイブリッドの会社が増えると思っています。

 

松村:僕も同意です。全てテレワークというのは、なかなかに難しい部分があると今回感じましたね…。

 

柴田:例えば、テレワーク主体になると雑談が一気に減りますよね。僕は、企業において雑談ってすごい重要だと思うんです。社員エンゲージメントへの影響もそうですし、またアイディアってけっこう雑談から生まれると思ってます。

だから、弊社にように完全にテレワーク経営にするにしても、雑談のようなアイディアを発散するオンラインMTGを定期的に設ける工夫をしたり、もっといえば定期的にオフラインでも会う機会を作るのがいいと思います。

実は弊社も、社員の飲み会は多かったりするんですよね。

 

松村:そうなんですね! それは意外でした。

 

柴田:またテレワーク経営をずっとやってきて気づいたのですが、オンラインMTGって意思決定は得意なのですが、ブレストが苦手だったりするんですよね。なのでテレワークにおいては社員のファシリテーションのスキルが重要視されてくると思います。論理的思考力を持ちつつ、みんなの意見をうまくすいあげるスキルですね。

そしてやはり、管理文化は疲弊すると思います。社員に任せる文化を作っていく、それがテレワーク経営の最も重要なポイントだと思います。

 

松村:なるほどですね。柴田さん、今回はすごく勉強になりました。本当にありがとうございました!!

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