複業研究家が語る、複業の未来

松村幸弥(以下、松村):西村さんに初めてお会いしたのはシューマツワーカーβ版のリリース前で、シューマツワーカーも僕自身も西村さんにはかなり影響を受けさせていただいております。今回のアンバサダーの件でも、まず始めに西村さんにお願いしたいと思いご連絡させていただきました。

 

改めてとなり恐縮ですが、簡単に自己紹介をお願いいたします!

 

西村創一朗(以下、西村):複業研究家の西村と申します。株式会社HARESの代表として、複業を広める活動をしています。具体的には複業に関する講演をしたり、本を書いたり。あとは企業側に対して、複業(副業)解禁をはじめとした働き方改革のコンサルティングを行っています。

 

松村:“働き方改革”のコンサルとはまさしく西村さんっぽいですよね。具体的にはどのようなコンサルを行なっているのでしょうか。

 

西村:働き方改革による、社員のエンゲージメントを上げるための人事コンサルですね。もともと採用のプロでもあるので、リファラル採用や採用ブランディングといった既存のエージェントや採用媒体に依存しない採用手法で採用コストを下げる、要はHR/採用領域で仕事をしています。

 

松村:なるほどですね。社員のエンゲージメントの重要性は近年上がっていますしね。

なぜ“複業研究家”になったのか

松村:西村さんは、いつ頃から複業研究家になられたのですか?

 

西村:複業研究家になった背景には、僕自身が前職の株式会社リクルートキャリア入社3年目のときに、複業としてブログメディアを立ち上げたことがあります。本業が法人営業だったのですが、実は僕がやりたかったのは事業開発だったのです。

本業の営業をがんばるだけでは事業開発の仕事にいけないと気づき、営業だけでは得られない経験を得るために、ブログメディアを立ち上げました。副収入を得たかったというよりは、この経験が本業にも活きるのではないかと思ってはじめました。これが複業を始めた原点ですね。

 

松村:複業のブログがどのように本業へ活かされたのでしょうか。

 

西村:ブログメディアが月間10万PV、20万PVと伸びる中で、社内の役員の目にとまり、営業から新規事業開発へ異動することができました。複業がなければ、こういった社内ジョブチェンジは実現できませんでした。そのとき、複業はキャリアデザインのいい選択肢だなと思ったのです。

つまり、自分のやりたいことがあってできなかった時、諦めたり、転職したりするわけではなく、第3の選択肢として今の会社を辞めずに、やりたい仕事にチャレンジする方法を模索できる手段が複業だと思ったのです。

そのとき僕が勤めていたリクルートグループは、たまたま複業(副業)がOKの環境でした。だから僕は複業の選択肢がありました。しかし、当時の世の中は複業(副業)禁止の企業が約9割。複業という選択肢を世の中にもっともっと広めたいと思い、2015年6月30日、27歳の誕生日に株式会社HARESを立ち上げました。

社名のHARESはうさぎの複数形で、「二兎を追って二兎を得られる世の中にしたい」という意味が込められています。

 

松村:専門家でもなく「研究家」にした意図はなんですか?

 

西村:専門家というよりは、複業のあり方というのを実践し続けて研究する立場でいたかったのです。僕はR&D(研究開発)という言葉がすごく好きなんです。スペシャリストというよりは、R&Dをし続けるという意味で研究家の方が合っていると思っています。

 

複業(副業)を解禁したら社員が転職してしまう、というのは幻想

松村:西村さんが複業研究家になられた時に比べて、いまは複業(副業)を解禁する企業がどんどん増えていると思います。この流れはこれからも加速すると思いますか?

 

西村:僕が会社を立ち上げた2015年に比べて、複業(副業)を解禁している会社は倍以上に増えています。その背景にはロート製薬の複業(副業)解禁が大きいです。2017年6月の出来事ですね。

それ以降、ソフトバンクや新星堂、エイチ・アイ・エスといった業界の大手が続々と複業(副業)を解禁しています。2019年も、さらに複業(副業)解禁を決めている大手企業が何社かあり、僕のところにも有名企業から数社相談がきています。

地方銀行や証券会社、不動産会社、小売・サービス業など、今までだったら複業(副業)解禁なんてありえなかった業界や業種からも複業(副業)解禁を検討している状況なので、2019年、2020年はさらに複業(副業)解禁のムーブメントが進むだろうなと思います。

 

松村:僕の周りにすら、そういう企業の声はいくつか届いていますね。

 

西村:働き方改革が謳われた直後は、国とメディアが複業(副業)を推奨・発信したことによっていくつかの大手企業が解禁しましたが、今はそういった流れがなくても自然と複業(副業)解禁する企業が増えてきたと感じます。複業のメリットが見えてきたからこそ、中小企業やベンチャー企業も複業(副業)解禁し始めています。今後は、さらにそれが当たり前みたいになっていくと思われます。

 

松村:複業(副業)解禁の流れがある一方で、「複業が向いていない企業」もあるのでしょうか?

 

西村:“会社にとっての向き不向き”と“社員にとっての向き不向き”がそれぞれあります。前者ついては、僕はすべての会社や業界が複業(副業)を解禁したほうがいいと思っています。企業にとって、複業(副業)を禁止していることによって失われているものがあまりにも大きいんですよね。

複業(副業)ができる環境=会社を辞めずにやりたいことができる、という選択肢があるということなので、実は定着率アップにも繋がる可能性も大きいです。複業(副業)が禁止の大手企業では、20〜30代の離職・転職が相次いでいます。だから、人材の流出を制止するという観点でも複業(副業)解禁は有効な手段なのです。

 

松村:知り合いの広報の方が最近転職をしたのですが、「どうして転職したんですか?」と聞いたら、複業(副業)が禁止だからと答えていました。実際に、複業(副業)を禁止にしていることが逆に人材流出リスクになるケースは増えていると思います。

でもやはり、「複業=転職してしまう」と思っている企業もまだまだ多いですよね。

 

西村:複業の3大リスクと呼んでいるものがあるのですが、それは「離職問題」「労働時間問題」「情報流出の問題」。でもこの3つ、実はぜんぶ幻想なのです。

まず離職問題に関して。複業(副業)OKにしてしまったら複業先に離職してしまうのではないかと思われがちです。しかし、実際はそんなこと起こっていなくて、複業(副業)を解禁した会社に聞くと「むしろ、従業員の定着率が上がった」と答えることも多いです。

そもそもなぜ転職するのかというと、「新しい仕事にチャレンジしたい」というのが大きな理由のひとつ上がります。新しいことにチャレンジする、仕事内容を変えるときに転職しか選択肢がないのと、いきなりリスクを犯さずに「複業でやってみたら?」と提案するのではその場で踏みとどまれるかがぜんぜん違います。

複業が楽しくて転職したというのは、そもそも複業が禁止だったら踏みとどまるまでにやめるだけなので、辞める時期が遅いか早いかだけなのです。むしろ、複業(副業)を解禁したから後ろ倒しになったという考え方もできます。

 

松村:「複業(副業)を解禁したから」というよりも、もとから転職願望があったということだけですよね。これは「シューマツワーカー」の利用者もそうで。複業したい人と企業をマッチングしていますが、そのまま複業先に転職したパターンってほとんどないのです。

転職したいから複業するというよりも、違うフェーズの会社で自分は通用するのかチャレンジしたいなど、他の理由をもって登録する人が多いですね。

企業が複業社員をもっと活用するようになるためには

松村:次は、複業を受け入れる企業側が気を付けるべきことについて話せたらと思います。

 

西村:複業はどうしても場所と時間が非同期ですよね。だから複業社員には、どういう業務内容をアサインメントするかが重要になってきます。またエンゲージメントを保つのが通常の社員に比べると難しかったりします。そこはかなり意識したほうがいいですね。

 

松村:おっしゃる通りですね。複業こそコミュニケーションがかなり問われます。

お互いに稼働する時間や場所がずれている分、ミーティングや打ち合わせの場でどれだけコミュニケーションをとり、どれだけアウトプットのイメージを揃えられるかが重要。複業社員は、本業では必要とされないそういった能力を身につけることが実は求められているんです。

 

西村:場所や時間に縛られない複業社員には、どういった業務を任せるのが向いていると思いますか?

 

松村:僕がよく言っているのは、緊急度と重要度の高い仕事は正社員がやるべきだということ。時間と場所が非同期の複業社員に緊急度の高い仕事は向いていないからです。だから複業社員には、重要度が高くて緊急度の低い業務を任せるのが向いていると思います。

 

西村:そうですね。もっというと、納品を伴う仕事だと思っています。オーダーをしてから納品をするまでにリードタイムがあり、いつ納品物を作るかは自由、というような仕事が複業にマッチしやすいんですね。たとえば、エンジニアやデザイナーなど。

それ以外の職種でも、営業であれば資料の作成やリサーチ業務などアウトプットが伴う仕事の方が時間と場所の非同期でも向いていると思います。

あとは、ナレッジワーク系の仕事ですね。ビザスクのようなものがわかりやすいですけど、自社の社員にはないノウハウを提供してくれる業種が複業には向いています。

 

松村:最後に、今後企業が複業社員をもっと活用するにはどのようなアクションが必要だと思われますか?

 

西村:複業社員を採用する際に、どうすればアウトプットを最大化できるかを考えることですね。そこを意識してノウハウが溜まってきていけば、どんどん世の中にも浸透してくると思います。

 

松村:そうですよね。ただ一方で、どこの企業も人材不足が嘆かれているのも事実。複業社員のリソースは、そういった課題の解決策になりえます。ノウハウが溜まってそれが世の中に広がれば複業社員を活用する企業が増えていくはず。そういったことをもっと啓蒙していかなきゃいけないと思っています。

西村さん、本日はありがとうございました!!

 

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