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1,100人以上の人事が登録するOne HRの共同代表が考える、これからの採用人事に求められる責任と覚悟とは?
島崎由真(しまさき・ゆうま)と申します。「One HR」というHR企業や企業人事を束ね…
2019.07.18
2019.08.01
松村幸弥(以下、松村):服部先生、お久しぶりです!お忙しい中お時間いただき、本当にありがとうございました。本日は、教授という立場から、僕ら企業側では気づかないような視点で採用・副業に関するお話を聞けたらと思います。
まずは、改めてどのような研究をされているのかお話ししていただけますでしょうか。
服部泰宏(以下、服部):以前は、松村さんの出身校でもある横浜国立大学にも勤務していましたが、今は神戸大学大学院経営学研究科で准教授をしています。基本的に、昔からずっとHR領域の研究をしていまして、例えば人事組織がまだ出来上がっていないベンチャー企業の採用データの分析とかですね。
その他に、“スター社員”の研究にも力を入れています。スター社員というのは頭ひとつやふたつ抜けて仕事のできる社員のこと。企業は彼らをどのようにすれば活かせるのかを研究しています。
松村:ありがとうございます!HR業界の著名人の中でも、大学教授という職業の方は珍しいですよね?
服部:日本だとそうかもしれないですね。でもアメリカではけっこう多くて、採用に関するデータ分析は企業にすごく興味を持ってもらえるんですよ。なぜなら、彼らがHRの企業における重要性と、またHRがビジネスになるとはっきり認識しているからです。かたや日本においては、やっと最近それを認識され始めたくらいなんです。
松村:日本において、採用の形態やチャネルの多様化はここ十数年の話ですよね。
服部:そうですね。アメリカだと、1960年あたりから、「どうすれば面接で最適なジャッジができるか」とか、「面接でどういう挙動をしている人は採用しないほうがいいのか」とか、など様々な角度から分析しています。
服部:フリーランスも副業社員も共通していると思うのですが、アメリカは人間が持っている能力をちゃんとお金として考えるんですよね。仕事ができなければリストラされることは往々にしてあります。逆に言えば、優秀であれば年収はどんどん上がっていきます。
松村:日本は年功序列が主流ですしね。とはいえ、日本でもスキルで年収が変動するような企業が、特にITベンチャー企業界隈で増えてきました。そんななかで、スター社員による副業の可能性はどのように考えますか?
服部:日本企業に勤めるスター社員にアンケート調査を行ったことがあります。その結果、大企業に勤めているスター社員の仕事に対する満足度はまあまああるんですね。しかし、「能力を活かせていると思いますか?」というアンケートには、多くの人が「そうでもない」と回答していました。
つまり、無駄になっている能力が多くある可能性があるということです。彼らの使っていない能力の余剰を他企業での副業や自分の会社立ち上げなどに活用することは、市場にとって大事なのではと考えています。
松村:ベンチャー企業を経営していて改めて思ったことは、大手企業で働いている人はとても優秀な人が多いということ。そういう人たちが培った経験やスキルは、ベンチャー企業のそれとはまったく違うものなんですよね。
ベンチャー企業は、状況や事業フェーズに応じて、そういう人と採用したい場合も少なくありません。一方で、スター社員側もベンチャー企業での経験をさらにまた自社で活かすことができる。副業解禁の流れもあり、スター社員の才能の余剰を他社で活かせる副業や起業などはどんどん増えていくんじゃないかと考えています。
服部:いいですね。スター社員の調査で、余っている能力は何に使っているか聞いたところ、実は全然しょうもないことに使われているんですよ。たとえば、会議の資料がとっくにできあがっていたとしても定時まで残らなきゃいけないから、その資料の体裁を整えるとか。
松村:別にスター社員がやらなくてもいい仕事ですよね。
服部:そうなんです。そうやってどんどん能力と時間が消費されてしまっているんですよ。
松村:知り合いの会社で、副業社員だけで成り立ってのところもいくつかあるんですよ。副業社員が各企業のスター社員だったりしています。以前は、起業するなら命懸けて取り組むという価値観だったけれど、最近は副業で空いている時間に起業するという価値観も広がってきてます。
服部:大企業の中にも、同様の発想のところはあるんですよね。会社の中で、「この人はプロジェクトAには20%、プロジェクトBには30%、このプロジェクトCには50%参加する」という振り分け方をして、スター社員の才能を100%活かせるような働き方をしています。
松村:そういう働き方が増えていったとき、人事採用担当者は、どのようなことを考えるべきだと多いますか?
服部:どういうことを期待しているか、もっと具体的に突き詰めて人材要件定義できない採用担当の方は、優秀な人材は採用できないと思うんです。これまでは、長期雇用で1日8時間働くことを前提に、ざっくりと優秀そうな人を採用できたけど、雇っている正社員側から「ずっとこの会社にいるわけじゃない」と言われてしまうこともあります。
松村:人事採用担当者のミッションは、何人採用するかというよりも、どういう能力を求めていて、何をしてもらいたいかを明文化することが必要ということですね。それを突き詰めたとき、週5も稼働しなくていい業務内容だったら、“正社員採用ではなく他社のスター社員を採用する”という選択肢もできたらいいですよね。
服部:そうですね、それが理想です。
松村:スター社員ではないにしろ、働く人は自身のスキルを見つめ直し、給料を上げるにはどうしたらいいかを意識したほうがいいと思うんです。なぜこの考えが必要かというと、世の中の多くの人は働くことに対してネガティブになってしまっているからです。
なんとなく働いていると、「定年まであとどれくらいあるんだろう…」と数えるようになってしまいます。しかし、自分のスキルとキャリアにきちんと向き合ったら、勉強をしたり企業イベントに参加したりしようと思えてきます。そういった行動でインプットした知見が次の職場で評価されてら、働くことが楽しくなります。
服部:そうなるには、いくつか条件が必要だと思うんです。まずは、能力を言語化すること。スター社員ではない人は、自分の能力をうまく伝えられないんですよね。
もうひとつ条件をあげるとしたら、リアルタイムで現状のスキルについてフィードバックするシステムですね。
企業や組織が「○○人規模のプロジェクトでリーダーを担当した」とか、「○○のサービスをこういう技術を用いて開発した」といった経歴をきちんとフィードバックする仕組みが必要だと思います。
RPGゲームのように能力が見えるようになれば、スター社員以外の社員も、副業の分野でも活躍できるようになるのではと思っています。
松村:僕たちもその文化が進むよう少しでも貢献できればと思います。服部先生、お忙しい中ありがとうございました!!