マネジメント層が注力すべき仕事で生産性を上げるための組織戦略とは?|株式会社ネクイノ様

「世界中の医療空間と体験をRe▷Design(サイテイギ)する」をミッションに、医療領域の新サービスを次々とリリースされている株式会社ネクイノ様

今回は、100名を超えて成長するネクイノ様の開発組織を、インフラストラクチャーから支える株式会社ネクイノ オペレーション本部 全社基盤管理部 部長 猪瀬学様にお話を伺いました。

ネクイノ様では、業務を抱えがちなマネジメント層が本来注力すべき領域に集中し、生産性を上げていくために採用されたのが「複業人材の活用」という方法でした。「複業人材」だった理由とは? その メリットとは? インタビューをご覧ください!(本文中では敬称略)

マネジメント層への業務の集中を、複業人材の活用で解決

ーーネクイノ様では何人も複業人材を活用されていますね。これはどうしてでしょうか?

一つは、マネジメント層に集中しがちな業務負荷を軽くして、本来集中すべき業務における生産性を上げるのに、複業人材への業務の切り出しが役に立っているんです。

マネジメント層の抱えている業務の中には、業務単位・機能単位で切り出せるものであっても、ガバナンス上、社内のメンバーに切り出すことが難しい業務もあります。そうした業務は、複業メンバーや業務委託メンバーなど、社外の方にお願いするようにしているのですが、これによってマネジメント層が本来注力すべきところに「手が回る」状態になって、生産性を上げることができています。

また、もう一つは、複業人材の活用は、チームをスケールさせるのに非常に役に立つと思っているんです。

私のチームなどは特に、少人数で業務を回していますが、少人数での業務運営というのは業務の属人化を生みやすい状態でもあります。しかし、スキルセットを持った複業メンバーに個別に機能を切り出してお願いすることに慣れていると、それぞれの業務を「機能」としてきちんと把握することができるんです。

すると、少人数で属人化した業務運営とは異なり、チームをスケールさせていくことができる健全な状態を、維持できます。

ーー生産性というと、具体的に御社の場合にはどういう業務が重要になるのでしょうか。

マネジメント層に限らずですが、ネクイノの場合、医療領域のサービスを展開している特殊性もあるかもしれません。社内だけに限ったとしても、一つの事業で物事を進めていくために関わるステークホルダーが多様で、それぞれが非常に専門性が高いんです。

例えばネクイノの主軸事業である「スマルナ」というピル処方管理アプリサービスは、医師、薬剤師、助産師などの医療従事者が多くかかわっています。そしてそれぞれ非常に重要度が高く、専門性も高いエキスパートです。そうした多岐にわたるステークホルダーと互いに意図を理解し合い信頼関係を構築しながらより良いサービスを目指していく、ということが、私たちにとって重要なことなんです。

それに開発メンバーとなると、複数の事業領域にまたがった課題に対応しなくてはならないこともあります。複雑さがどんどん増していくんですよね。

こうした部分に、社内のメンバーはきちんと向き合う体制を作っていきたい。マネジメント層に上がっていくほど重要なステークホルダーは増えていきます。そして事業成長・組織成長に伴い、やることはどんどん増えていきます。だから業務を整理していく必要性があるんです。

ーー多くのステークホルダーが重要であるという点は医療系ならではでもありますが、他の領域の企業様にとっても、マネジメント層が他の方に切り出せるはずの業務に手一杯になり、本来の業務に集中できないというのはよく聞く話でもありますね。ネクイノ様では、複業人材にどういう業務を任せるかは、どのように考えておられるのですか?

私のチームでは、業務を「機能」単位で分けて、「機能」に対してリソース不足の部分を洗い出します。機能というのは、その業務が何を果たしているのかという意味です。

順番を追って説明すると、まず、①あるべき姿・状態を洗い出し、②それに対して必要な機能を導き出し、それから③実際に回してみて足りない部分があったら、社内または外部メンバーに対応してもらう方法を検討します。スペシャリティ(専門性)の求められる業務については外部メンバー、社内の調整やマネジメントが必要な業務は社内に求めることが多いです。

フルタイムでは長すぎる × ある程度の専門性も必要。複業人材の活用がピッタリはまったケース

ーー今回、猪瀬様のチームでも新たに複業メンバーを受け入れられました。今回については、具体的にどういう状況、課題があったのでしょうか。

先ほどのマネジメント層の業務負荷の課題と同様、きっかけは私に「時間がない」という課題が切実になったことでした。私の業務が増えすぎていました。自分の担っている「機能」を分解していったときに、一部を切り出してお任せする人を探したいと思い、それをお任せする人材には二つの条件がある、というところまでわかりました。

一つは、フルタイムでは就業時間が長すぎるということでした。フルタイムのメンバーを採用するとなると、業務時間に見合う業務がなくてはなりませんが、そこまで分量が多いというわけではありませんでした。

もう一つは、ある程度の専門性も必要となるということでした。フルタイムでは多すぎる分量ではあっても、単純作業というわけではありません。ある程度の専門性や理解がないと、うまくいかないだろうということもわかりました。

そうした時に、そこにうまくはまるのが複業人材ではないかと思ったんです。そこで、シューマツワーカーにお声がけをしました。

ーーシューマツワーカーにはどのような印象をお持ちでしたか。

前任のCTOの時代から、シューマツワーカーからの複業メンバーが働いていることは知っていました。社員メンバーの開発サポート(開発事務)を担当していたのが複業メンバーだったのです。それ以外にも、データエンジニアデータアナリストの複業メンバーなどがいました。

そして今回切り出しを行ったのは、開発保守の業務です。

私が一人で対応していて、やる必要があるけれども、ルーチンとなっていて定型化できる。一人分フルタイムでお願いするほどの量はない一方、ある程度の時間を確保していただけて、必要なスキルセットがある方でないとお願いできない。複業人材の活用はマッチするのではと思いました。実際、複業メンバーが稼働を始めて、うまくいっており、非常に助かっています。

複業メンバーに対する業務切り出しのコツとは? IaC (Infrastructure as Code)を応用した業務標準化について

ーー業務の切り出し方については、多くの企業様が悩まれています。猪瀬様が思う、業務切り出しのコツはありますでしょうか?

特殊かもしれませんが、私は自分一人の業務であっても、必ず手順書を作成することを決めています。

前提として「チームをスケールさせる」という考えを持っているんです。自分がやっている業務の中で、ドキュメント化しないタスクがあるとすればそれは「やるべきタスクではない」と判断できます。自分がやっている業務を「機能」として考えて、その「機能」について誰でも回せるようにすることを心がけています。

業務を見える化し透明性を高める背景には、現在、基本的にみんなリモートワークだということも関係しています。

ーーそうすると、複業メンバー向けに新たに手順書を作るという必要はないわけですね。

そうです。手順書の前には、作業ログを残すことも常に行っています。これはIaC (Infrastructure as Code)という考えをベースにしています

インフラの場合は、ちょっとした手順の間違いが障害につながります。だからインフラ開発時には必ず手順書を作るんです。

作業ログは毎回、何をするにしても作ります。で、徐々に作業ログがルーチン化していき、手順書になる。手順書の中で自動化できる部分がプログラムのコードになる・・・という順番で考えます。コード化できないものは、外部の方にお願いするなり、体制を整えていきます

ーー作業ログとは、具体的にどのようなものでしょうか。

以下のような内容を網羅したドキュメントを作成します。日々の業務内容に対して、常にこれらを書いて残していきます。

概要:なぜ行うことになったかの経緯の記載
作業内容:何をどのように行ったかの記載
事後確認:作業が正しいかどうかの確認作業

これをやっていないと、特にインフラ領域では弊社の場合、NGです。インフラチームではIaC化を念頭に置いて進めていますので。

リモートワークでは、特に事後確認の項目も重要です。隣に人がいて作業をする、確認しながら進めるということができませんから。常に証跡を残すことによって、作業の正しさをチェックして進めていくんです。

ーー自動化できるところは自動化していく。人手が必要なところは、体制が整えば外部メンバーに切り出していくんですね。

はい。業務の切り出しとして、今回、新たに募集を開始することを考えている業務があります。脅威検知(SOC)です。私のチームで対応することもできるんですが、内部統制上、それはよくないと。そうした時にどうするか考えた時、複業人材の活用を考えました。これこそ、フルタイムでの業務ではないんですが、専門性も必要となります。複業人材に入ってもらうのがぴったりかなと思います。

複業人材の活用が、アカウント管理の全社見直しの契機に

ーーセキュリティ面のアカウント払い出しに不安があったということですが、詳しく教えてください。

アクセス権限の管理が社内で一元化されていなかったんです。そこで、全社的にアクセス権限管理の見直しを行いました。私のチームで複業・業務委託メンバーを受け入れることが、あらためて見直しの契機になりました

ーー外部メンバーの受け入れにあたって、気をつけるべきポイントはどこだと思われますか。

基本的なことですが、まずは契約周りを整備して、漏れないがないようにすることと、いつでも把握できる状態にしておくことです。

と同時に、アカウント権限に関しては「ゼロトラスト」という考え方が重要だと思います。

「ゼロトラスト」とは、今までならば「境界型防御」という考え方で、ネットワークに接続する特定の場所として、オフィスのネットワークを閉じていればよかったわけですが、現在のリモートワーク環境下ではその考え方は通用しません。そこで広まった考え方です。

境界がなくなったところに仮想的境界を作る、または、外部から攻撃されることを前提としてアクセス権限を最小に設定していく。そのような考え方です。

ーー具体的には、ネクイノ様ではどのように解決されましたか。

社内の体制として、アカウント払い出しを専門に行うチームを作りました。社内のゲートキーパーを担ってもらっています。さらに、法務とも連携し、契約書周りも整備しました。抜け漏れがないように。

全体として、アカウントの払い出しの業務フローも構築して社内に展開しました。これまではSlackで「お願いします!」と申請していたのですが、人数が多くなってくるとそれでは証跡を残したり、抜け漏れなく確認することが難しいため、Kintoneを利用してのアカウント払い出し申請のワークフローを構築しました。

ネクイノでも「ゼロトラスト」の考え方で、アクセス権限を最小に絞っていったんです。以前はアクセス権限が広すぎたり、必要のない権限まで付与されているということもありましたが、これを契機にアカウントの整理をすることができました。

あとは、セッションの機能がついていないアカウントログイン方式はやめるといったことも、インフラチームで同時に進めていきました。

ーーセッションの機能とはどういうものか、教えていただけますか。

IDとパスワードでログインできるものがあったとして、ある程度の時間が経った時に自動的にログアウトされる機能がついているということです。もしこの機能がついていなかったら、いったんパスワードが漏れた時に誰でも入れる状態となり、攻撃に対して脆弱性が生まれてしまいます。

ーー複業メンバーの受け入れを、安全に、安心に行っていくための基盤作りや整備も、強化されてこられたのですね。

ネクイノが目指すチームづくりと、医療スタートアップとしての事業展開

ーー最後に、あらためてネクイノ様の目指すチーム作りについて伺いたいと思います。複数の事業展開をされていますので、そのあたりから教えていただけますでしょうか。

ネクイノは、「世界中の医療空間と体験をRe▷Design(サイテイギ)する」をビジョンに、医療領域のサービスを提供している企業です。

ネクイノは、取締役のうち2名が薬剤師の資格・経験を持っています。医療系スタートアップだと医師の方がやられているスタートアップが多いかと思うのですが、ネクイノの場合は薬剤師ーーつまり薬のプロフェッショナルによる創業であることが特徴です。ICTを活用したオンライン診察をはじめ、健康管理支援、未病対策など、一人ひとりのライフスタイルや健康状態に合わせて選択活用できる医療環境を生み出し、PHR(パーソナルヘルスレコード)を中心とした医療DXを目指します。

今は、自分の健康状態というのは、処方箋が各地のクリニックに点在していて、「自分の健康状態」を全般的に把握したり、管理する方法というのはありません。個人でスプレッドシートで管理したり、アプリを使ったり、といった方法で管理する他はありません。

こうしたPHR領域というのは、例えばアップルウォッチなどが例に挙げられます。アップルウォッチって、活動ログを記録し、健康状態を管理できますよね。アップルウォッチの場合は医療機関との連携はありませんが、ネクイノのアプリは、診療録をまとめていくことで自分の健康を管理していくサービスで、医療機関との連携が強みであり、違いになります。

メインの事業は、スマホでピルの相談・診察・処方まで行えるオンライン・ピル処方サービス「スマルナ」です。自治体や医療機関などと連携し、女性の働き方を改善していくサービスとして「フェムテック」として括られることもあります。

その他、IDリレーション(マイナンバーカードと健康保険証の連携)と、メディボックス(OMO領域、オンライン診察、クリニック連動サービス)などの事業も展開しています。クリニックはたくさんあるのですが、ニーズに対して偏在しており、求めている人に届いていないという社会課題に向け、解決策を提供していくサービスです。

ーー事業がたくさんあるなかで、組織体制はどのようになっていますか。

事業部と機能単位で分かれています。ウィメンズヘルス推進本部(スマルナ)、医療DX本部(新規事業)、カスタマーエンゲージ本部(運用)、オペレーション本部(開発)と分かれていて、私はオペレーション本部の全社基盤管理部というところに所属しています。

ーー組織のカルチャーはどのようになっていますか。

社内の評価制度にもリンクして、バリューとして3つのキーワードがあります。抽象度が高いので、私はこんな例を用いてご紹介することが多いです。

Get Wild
リスク志向、チームで業務を進めていくための思考の柔軟さを持っているか。(山登り)
Activation&Velocity
最初の一歩を進められるか。(ボルダリング)
終わりまでの距離を縮められるか。(トレイルランニング)
Give it Forward
ブレずに走り続けることができるか。(マラソン)

医療系の方が多く、法令遵守やビジョンに対しての意識が高い方も多いです。薬剤師・助産師・医師などの医療系の出身者が多いのは特徴的だと思います。専門性の高いエキスパートたちと一緒に、より良いサービスを作っていく、これが難しいところでもあり、挑戦的でやりがいのある部分だと思います。

また、初めに言ったように、事業が増えてきたことで必要なコミュニケーションも複雑さが増して、より難易度が上がった面もあります。そういうところをしっかりと円滑に進めていくことで、より良いサービスを追求していきたいと思っています。

ーー事業も組織もどんどん成長されている中、ネクイノ様では今後も複業人材の活用は進めていきたいと思われますか。

はい。複業人材を活用することはチームのスケールに役立つと思いますので。切り分けられるところは進んで切り出して、複業人材の力を活用して生産性を上げていきたいと思っています。
シューマツワーカーには、今後もご連絡すると思います!

ーーありがとうございました!

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最後までお読みいただきありがとうございました。

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