
採用マーケティングとは?実践手順と成功させるための戦略設計
「求人を出しても、なかなか応募が集まらない」
「せっかく採用しても、期待していた人材と少し違った」
こうした悩みを抱える人事・採用担当者の方は、決して少なくないのではないでしょうか。
ある調査によると、2024年の中途採用市場について企業の中途採用の印象は「厳しかった」と回答した企業が全体の約8割にのぼりました(*1)。
*1 マイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」
https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2025/03/tyutosaiyouzyoukyou2025-2.pdf
求人を「出す」だけでは、思うように人材が集まらない時代になっているのです。求人媒体に予算をかけても、応募数そのものが伸び悩んだり、応募は来ても自社が求めるスキルや価値観と合わなかったりと、採用担当者の悩みは尽きません。
こうした状況を打開する考え方として、近年注目されているのが「採用マーケティング」です。これは決して大企業だけのものではなく、限られたリソースの中で採用を進めるスタートアップや中小企業にとっても、むしろ取り入れる価値の大きい考え方です。
この記事では、採用マーケティングの基本的な考え方から、実践のための具体的な手順、そして成功させるための戦略設計のポイントまで、わかりやすく解説してまいります。
目次[非表示]
採用マーケティングとは
採用マーケティングとは、商品やサービスを顧客に届けるためのマーケティングの考え方を、採用活動に応用する手法のことです。求職者を「顧客」と捉え、自社の存在を知ってもらう段階から、興味を持ってもらい、応募し、入社を決めてもらうまでの一連のプロセスを、戦略的に設計していきます。
従来の採用活動は、求人媒体に情報を掲載して応募を待つ、いわば「待ちの採用」が中心でした。しかし現在では、求職者側がSNSや口コミサイト、企業のオウンドメディアなど、さまざまな情報源から企業を見つけ、比較し、選ぶという流れが一般的になっています。だからこそ、企業側から積極的に情報を発信し、求職者に「選ばれる」存在になるための工夫が必要とされているのです。
具体的には、自社の魅力を整理して発信するブランディングの側面と、求人広告やSNS、リファラル採用など複数のチャネルを組み合わせて母集団を形成していくコミュニケーションの側面の、大きく2つの機能を持っています。この2つを別々の施策としてバラバラに行うのではなく、一つの戦略の中で一貫性を持たせて設計していくことが、採用マーケティングの本質だといえるでしょう。
なぜ今、採用マーケティングが必要とされているのか
理由① 労働力人口の減少による採用競争の激化
厚生労働省が公表した「令和7年版 労働経済の分析」によれば、15〜64歳の生産年齢人口は2020年の約7,500万人から、2040年には約6,200万人にまで減少すると見込まれています(*2)。
*2 厚生労働省「令和7年版 労働経済の分析-労働力供給制約の下での持続的な経済成長に向けて-」
https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/roudou/25/25-1.html
働き手そのものが減っていく中で、これまでと同じやり方で求人を出すだけでは、採用競争を勝ち抜くことは難しくなっています。だからこそ、限られた人材に対して、企業側から積極的にアプローチしていく発想の転換が求められています。
理由② 求職者の情報収集行動の変化
別の調査によると、転職活動中の情報収集で最も多く利用されたプラットフォームは「企業のHP・オウンドメディア」でした。また、企業のリアルな情報を動画で見ることで志望度が上がると回答した正社員は、約9割にのぼっています(*3 )。
*3 マイナビキャリアリサーチLab「2025年1月度 中途採用・転職活動の定点調査」
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250228_93406/
求人票の情報だけでは、求職者の不安や疑問は解消しきれません。オウンドメディアや動画など、自社の魅力や実態を多角的に伝えるコンテンツの重要性が高まっているのです。
採用マーケティングの実践手順
ここからは、採用マーケティングを実際に進めるための、5つのステップをご紹介します。
ステップ① 採用ペルソナを設計する
まずは「どのような人材に来てほしいのか」を具体的に言語化します。スキルや経験だけでなく、価値観やキャリア志向、転職を考えるきっかけになりそうな出来事まで、できるだけ解像度高く設定することがポイントです。ペルソナが曖昧なままだと、後続のすべての施策の的が絞れなくなってしまいます。
このとき、人事担当者だけで考えるのではなく、実際に一緒に働く現場のマネージャーやメンバーを巻き込んで設計することが大切です。現場が本当に求めているスキルや人物像と、採用活動で発信するメッセージとの間にズレが生じると、選考が進んでからのミスマッチにつながってしまいます。
ステップ② 自社の魅力(EVP)を言語化する
EVPとは、Employee Value Propositionの略で、企業が従業員に提供できる価値のことです。給与や福利厚生といった条件面だけでなく、事業の社会的意義、働く環境、裁量の大きさ、成長機会など、自社ならではの魅力を棚卸しします。競合他社と比較したときに、自社にしかない強みは何かを整理することが重要です。
この段階では、経営陣や人事だけの視点にとどまらず、実際に働く社員へのヒアリングを行うこともおすすめです。社員自身が感じている「この会社で働く意味」は、求職者にとって説得力のあるメッセージになりやすく、採用サイトや面接での訴求内容にも活かすことができます。
ステップ③ カスタマージャーニーを設計する
求職者が自社を「認知」してから「応募」「選考」「入社」に至るまでの道のりを可視化します。各段階で求職者がどのような情報を求め、どのような不安を抱きやすいかを想定し、それぞれの接点でどのような情報を届けるかを設計していきます。
ステップ④ チャネルとコンテンツを設計する
ペルソナやカスタマージャーニーをふまえ、求人媒体、SNS、オウンドメディア、リファラル採用、ダイレクトリクルーティングなど、適切なチャネルを組み合わせます。特にオウンドメディアは、求職者が自社の実態を深く知るための重要な接点となるため、社員インタビューや働き方の紹介など、リアルな情報発信が効果的です。
ステップ⑤ 効果を測定し、改善を繰り返す
採用マーケティングは、一度設計して終わりではありません。応募数、選考通過率、内定承諾率、入社後の定着率など、各段階の数値を継続的に計測し、どこにボトルネックがあるのかを把握しながら、PDCAを回していくことが成果につながります。
採用マーケティングを成功させるための戦略設計のポイント
ポイント① 短期の採用と中長期の関係構築を分けて考える
採用マーケティングは、すぐに応募につながるとは限りません。「今すぐ転職したい層」への訴求と、「いずれ転職も考えたいが今は動いていない層」との関係を長期的に育てていく施策を、意識的に分けて設計することが大切です。
前者に対しては、求人媒体やダイレクトリクルーティングなど、顕在層に直接アプローチできるチャネルが有効です。一方、後者に対しては、オウンドメディアやSNSを通じた継続的な情報発信が力を発揮します。すぐには応募につながらなくても、日頃から自社の情報に触れてもらうことで、いざ転職を考えたときに「まず思い出してもらえる」存在になることができます。
目先の応募数だけでなく、こうした中長期的な効果も見据えて予算や工数を配分することが、戦略設計の質を高めるポイントです。
ポイント② 転職市場に現れない人材にもアプローチする
採用マーケティングの効果を最大化するには、求人媒体だけに頼らない母集団形成の発想も欠かせません。
近年は、転職を考えていない優秀な人材と、副業や業務委託という形でまず関わりを持ち、その後の正社員化につなげる企業も増えています。実際に一緒にプロジェクトを進める中でお互いの相性を確認できるため、採用のミスマッチを防ぎながら、通常の転職市場では出会えない人材との接点を作ることができます。採用チャネルの一つとして、こうした働き方の選択肢を取り入れることも、戦略設計における有効な打ち手といえるでしょう。
ポイント③ 現場を巻き込んだ発信を続ける
採用マーケティングは人事担当者だけで完結するものではありません。実際に働く社員の声や日常の様子は、求職者にとって何よりの判断材料になります。前述の「理由② 求職者の情報収集行動の変化」でも見てきたように、今の求職者は自らリアルな情報を求めて情報収集する習慣があります。求職者の求める「リアルさ」とは、実際に働く現場の声です。
現場社員を巻き込みながら、無理のない範囲で継続的に発信できる体制を整えることが、長期的な成果につながります。有名な例としては、フリマアプリ「メルカリ」を提供している大手IT企業株式会社メルカリが運営するオウンドメディア「メルカン」などがあります。ほぼ毎日更新し、社内コミュニケーションにも役立てている事例です(*3)。
*3 広報会議「組織文化を受け継ぐためのインターナルコミュニケーション施策とは?」https://www.sendenkaigi.com/marketing/media/kouhoukaigi/015377/
まとめ
採用マーケティングとは、求職者を顧客と捉え、認知から入社までのプロセスを戦略的に設計する考え方です。労働力人口の減少や求職者の情報収集行動の変化を背景に、その重要性はますます高まっています。
ペルソナ設計、EVPの言語化、カスタマージャーニー設計、チャネル・コンテンツ設計、効果測定という5つのステップを丁寧に積み重ねながら、自社ならではの魅力を発信し続けることが、これからの採用活動を成功させる鍵となります。あわせて、副業や業務委託といった新しい採用チャネルも選択肢に加えることで、より幅広い人材との出会いを生み出せるはずです。ぜひ自社の採用戦略の見直しに役立ててください。



